12月4日‐5日に、文化政策コース修士学生のフィールドトリップを実施しました。
今年度は山形県鶴岡市を訪問。羽黒山周辺の文化的景観の中心である国宝五重塔の視察、2018年3月に開館し地域の文化拠点としての役割を期待されている荘銀タクト鶴岡の事業及び国内唯一のユネスコ食文化創造都市である山形県鶴岡市による食文化推進事業の調査を行いました。ご協力いただきました皆様には、深くお礼を申し上げます。
・羽黒山 国宝 五重塔
・荘銀タクト鶴岡
・鶴岡市役所
・鶴岡市役所櫛引分所
・国指定史跡 山居倉庫
1)羽黒山 国宝 五重塔
山形県には6点の国宝が存在するが、そのうちの3点は鶴岡にある。また国指定の文化財数でも県内の半数以上をこの町が抱えており、文化の積層・種類共にポテンシャルは高い。しかし、首都圏からの時間距離が遠いことから観光面で生かしきれていないのが永年の悩みでもあり、今回代表的な国宝・五重塔を視察し、また周辺地域(鶴岡市中心地・酒田市)の文化財との回遊性などを調査した。羽黒山有料道路が冬季閉鎖に入った初日であったが、五重塔には雪模様の中、静かな環境を求めて想像以上の訪問者が確認できた。また、塔に至るまでの参道は特別天然記念物に指定された6百本近くの杉や、承応3年月山麓より8kmの水路を引いた古代土木など周辺域と一体となった資源であることは特筆されよう。
街はコンパクトにまとまっており、隣接の酒田市の保存街並みなどへの道路状況(バス路線も含め)は、地方都市にしてはかなり充実していて充実感の高い見学ルートが構築できる。
2)荘銀タクト鶴岡
荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)は40年以上利用された前文化会館から、多くの議論の末、部分的改修ではなく建て替えという選択のもと、2018年3月に開館した。地方銀行である荘内銀行がネーミングライツを買い取り現在の呼称となっている。所在地近くには荘内藩の藩校であった致道館があり、会館建設の際には文化的景観の調和を意識した設計が取られている。また、鶴岡公園から羽黒山、月山、金峯山を眺望した際に、その風景が自然景観として調和するよう高さを意識した設計にもなっている。このような景観への配慮及び意識は近年多くの自治体で積極的な取り組みがされており、今回の視察でもその実際を確認することができた。
当施設職員へのヒアリングへの前に、市民に対して開館日は常に開放している劇場ロビーにおいて開催された、タクトロビーコンサートを鑑賞した。(本コンサートは予約不要、無料での開催)我々文化政策コース3名を含み日曜日14:00開演(悪天候)で20名程度の鑑賞者が確認された。特筆すべきは、本コンサートシリーズは荘内地方を含む山形県内のアーティストを起用していることである。ここに当施設が意識しているハードの充実とソフトの育成を感じることができた。鑑賞者は母親に抱かれた乳幼児から高齢者まで幅広かったことも付け加えたい。当日大小いずれのホールでも公演は行われていなかったが、開放されたロビーで勉強に励む中高生や、読書に耽る成人、そしてロビーコンサート、地域に開かれた公共文化施設の可能性を強く感じた。
終演後タクトつるおか共同企業体の軍司氏、伊藤氏とコロナ禍で経験した新たな活動とその効果と意義、改善点について意見交換を行った。人口12万人を下回る鶴岡市にとって、荘銀タクト鶴岡は過剰な文化施設に映るかもしれない。しかし今回のFTを通して、元来鶴岡市が持っている文化的背景と豊かな自然に育まれた市民の精神は、今後荘銀タクト鶴岡の機能を最大限活用し、地域の文化拠点として成立させるだろうと確信した。今後とも当施設の活動に注目したい。
3)鶴岡市企画部食文化創造都市推進課
鶴岡市は、2014(平成26)年ユネスコ創造都市ネットワークに加盟が認定され、食文化分野では国内初のユネスコ創造都市となった。食材の生産から加工、流通、飲食、観光、食器等を含めて、裾野の広い多彩な食文化を保存・継承していく積極的な取り組みを支援している。今回のFTでは、鶴岡食文化創造都市推進協議会による「地域の食をテーマにした料理教室・体験事業等支援補助金」を活用した鶴岡の行事食講座「大黒様のお歳夜」に参加しながら、講座主催者である中野りつ氏(元・推進協議会フードツーリズム担当、現・一般社団法人DEGAM鶴岡ツーリズムビューロー)をはじめ、運営協力者である川島氏(庄内観光物産館事業部商品企画部部長)、加藤氏(同社次長)に対してヒアリング調査を行った。現状ではソフト事業に対する助成を受けることで行事食体験プログラムを実施・継続できていることを確認したが、今後は調理加工施設等のハード面に対する支援も必要としていることが明らかになった。
これを踏まえて、鶴岡市企画部食文化創造都市推進課を訪問し、三浦課長、大川主事に対してヒアリング調査を行うことができた。計6名で構成される同課では、姉妹都市や海外のユネスコ創造都市との国際交流に対応できる担当者(JETプログラム・米国出身)をも配置している。同課の中には、市の食文化関連予算のほぼ全てを委託する協議会事務局(独自に2名雇用)を設置することで、市民の食文化活動支援を円滑に行うことができている。
「鶴岡市食文化創造都市推進プラン(令和元年度~令和5年度)」(①食文化の伝承・創造と共に歩む産業振興〔目標取組数33〕、②食文化を活かした交流人口の拡大〔目標取組数12〕、③食文化による地域づくり〔目標取組数43〕)は、協議会に加盟する農協、森林組合、漁協、商工会、DEGAM、産業振興センター、大学、飲食販売等団体、食生活改善推進協議会等の34団体と連携を密にすることで、総合的に推進する体制を構築できている。特に、地域自給経済圏を形成する庄内スマート・テロワール、交流人口の拡大を目指すフードツーリズムや国内外でのプロモーション、さらに鶴岡型ESDによるSDGs実現が推進されている。まもなく5年間の推進プランが終期を迎えるため、新たな中期計画策定に向けての検討を開始したとのことである。昨年に大分県臼杵市が国内2番目のユネスコ食文化創造都市に認定されたことを受け、今後両市では、食文化による郷土づくりカンファレンス等の開催を通じて、都市間連携を強化していく予定である。
文化政策コース
特別セミナー2022文化を巡る政策最前線
各分野における専門家をお招きし、本学学生を対象に下記要領で特別セミナーを開催します。第89回は「台東区の都市づくり景観まちづくりの実態と今後の課題」をテーマに、台東区(谷中防災コミュニティセンター1階会議室)にて専門家のお話をお伺いいたします。
【第89回 開催概要】 ■日 時 2022年12月 9日(木)13:00-14:30 ■会 場 谷中防災コミュニティセンター1階会議室|台東区谷中5丁目6番5号 ■講 師 (1)台東区の都市づくりについて 寺田 茂氏(都市計画課長)
(2)谷中地区まちづくりについて 反町 英典氏(地域整備第三課)
■題 目 「台東区の都市づくり 景観まちづくりの実態と今後の課題」 ■内 容
2004年に成立した景観法は、景観形成にかかわる規制法であり、良好な景観がアイデンティティや人々の生活の質、そして観光資源として地域経済にとっても重要性を持つようになった我が国の社会的潮流がその背景にある。今回は、台東区都市づくりの担当者より、台東区谷中のまちなみ保護施策についてご紹介いただくとともに、事例を通じて現状と課題に関する認識の共有、考えられる今後の展開について考える。

【お申込みその他】
■参加費 無料
■言 語 日本語
■対 象 本講義受講生他
■主 催 政策研究大学院公共政策プログラム文化政策コース
ディレクター・教授 垣内恵美子
国際シンポジウム「劇場の未来を考える課題解決型シアターマネジメント2022」を開催しました。PartⅠは協力劇場及び関係者によるクローズドセミナー、PartⅡでは海外からの専門家を迎えての基調講演、ディスカッションを行いました。
■開催報告2|PartⅡ 海外招聘パネリストによる基調講演
協力劇場館長・本事業アドバイザリー・海外招聘パネリストによるラウンドテーブル
Part Ⅱ|コロナ禍を超えて ~新たな視点
PartⅡでの基調講演では、財政学の専門家でヨーロッパの文化政策全般に造詣の深い、クサビエ・グレフ名誉教授(フランスソルボンヌ大学)に、劇場活動の支援において地方自治体が果たす役割、その重要性、必然性などについて、ヨーロッパの現状を踏まえてお話いただきました。またヨーロッパをリードする都市計画の専門家であるクンツマン名誉教授(ドルトムント工科大学)から、ドイツの人々にとって、劇場やコンサートホール、さらには地域文化センターなど文化拠点がどのような存在なのか、そしてコロナ禍以降どのような方向に進んでいくのか、将来展望を、具体的な数字も踏まえ、ご紹介いただきました。各国と日本の違い、またそれを超えて共通する課題について考える機会になったのではないでしょうか。
(1枚目:クサビエ・グレフ名誉教授、2枚目:クラウス・クンツマン名誉教授)
クサビエ・グレフ名誉教授は、2020年3月以降、全世界に影響を及ぼしているパンデミックは、我々の生活を揺るがした、として、COVID-19以降のヨーロッパにおける劇場をとりまく状況について講演しました。
「ヨーロッパでは、文化・創造分野もパンデミックの影響を最も大きく受けている。ユーロスタットの推計によるとCOVID-19は、EU全体で文化的・創造的な仕事に就く約730万に影響を与える可能性があるとされる。オランダでの報告(Ernst & Young Report)によるとクリエイティブ・文化産業(CCI)は、航空輸送部門に次いで最も大きな打撃を受けたとされ(売上高は、2019年に比べて31%減少)る。しかし、オランダの航空会社KLMが34億ユーロの支援を受けたのに対し、オランダのクリエイティブ・文化部門は17億ユーロを受けるにとどまった。また、影響を受けた人々の約30%は自営業者で、十分な社会的保護を受けられませんでした。ヨーロッパでは、文化部門、特に舞台芸術は、何カ月にもわたる施設利用の停止、閉鎖、また多くのアーティストが姿を消すなど、非常に深刻な影響を受けた…」
クラウス・クンツマン名誉教授は、都市環境の専門家として、劇場のもつ役割を踏まえながらドイツの現状について講演しました。
「日本語で<劇場>というと、あらゆる文化イベントを催す場所を示すようです。日本でも、パンデミックのあと、劇場と劇場の役割が議論になっている。ドイツでも劇場は社会における重要な役割を果たし、礎石になるものであり、多機能な市民ホールは地域経済にとって不可欠な場となっている。長い歴史に根差し、常に重要な役割を担っていました。エンタテイメントは教育の柱でもあり、劇場は、教育、社会包摂の場ともいえる。劇場が民主主義の門番であるとも考えられてきた。ここでは、ドイツの都市開発、生活における文化関連の重要性について述べさせていただきます……」
政府と劇場:コロナ後はどうなる? ヨーロッパの視点から
Governments and Theatres: What is Next After Covid? A European View.
クサビエ・グレフ名誉教授 Prof. GREFFE, Xavier
劇場、コンサートホール、文化センター:ドイツにおける日常生活及び都市発展の灯台/礎
Theatres, Concert Halls and Socio-Cultural Centres Light Towers and Corner Stones of Urban Life and City Development in Germany
クラウス・クンツマン名誉教授 Prof. KUNZMANN, Klaus R.
Part Ⅱ|コロナ禍を超えて ~新たな視点
16:00ー17:20
ラウンドテーブル Roundtable
(including directors of collaborating theaters, advisory members and panelists)
(協力劇場館長、アドバイザリー、協力研究者)
基調講演に登壇したクサビエ・グレフ氏、クラウス・クンツマン氏にを迎え、協力劇場(日立システムズホール仙台、神戸文化ホール、兵庫芸術文化センター、松江市八雲林間劇場しいのみシアター、北九州芸術劇場)より各館長、本事業アドバイザリーらにより、今後の劇場の在り方について意見交換を行いました。各館長からは、それぞれの活動内容を踏まえつつ、コロナ禍を超えての新たな展望や見えてきた課題、あるいはキーノートスピーチで紹介いただいた国際的な潮流との関連などについて、自由にお話しいただきました。

<登壇者>
上段左から、クラウス・クンツマン名誉教授(ドルトムント工科大学)、クサビエ・グレフ名誉教授(パリ第一大学)、佐藤ゆうこ館長(日立システムズホール仙台)、山下英之副館長(兵庫県立芸術文化センター)/中段左から、垣内恵美子名誉教授(政策研究大学院大学)、園山土筆館長(松江市八雲林間劇場 しいの実シアター)、久保山雅彦館長(北九州芸術劇場)、服部孝司館長(神戸文化ホール)/下段は本事業アドバイザリー、左から、津村卓氏(地域創造)、永山恵一氏(政策技術研究所)、斎藤譲一氏(日本劇場技術者連盟 )
各館長からの、コメント概要をご紹介いたします。
■佐藤ゆうこ氏|日立システムズホール仙台
利用者の固定化に課題意識を持っています。これから若い世代、ミレニアム世代にいかにアプローチするかが大切ではないかと考えています。指定管理制度のもとの運営ですので、事業費のきびしいなかであらたなチャレンジがむつかしいことは否めない。また若者、弱者へのアプローチも充分とは言い難い。クンツマン先生の話にもありましたようにエンタメ娯楽施設ではなく、教育と結びついた取り組みをしているドイツの例を伺い、その側面にも取り組みたいと考えました。コロナにより、観客、来場者数が戻っていないのは同じです。そうしたこともふまえながらあらたな取り組みをいろんな角度でやっていきたい。指定管理施設なので、行政の意向も踏まえつつ、わたしたちから新たな取り組みを行いたいと考えています。
■服部孝司氏|神戸文化ホール
神戸文化ホールは来年開館50周年を迎えるホールです。それだけに市民の認知度が高く、よく利用されているホールですが、老朽化が激しく、4年後には三宮に新築という話があります。2020年度には、コロナで5億以上の赤字を出して存亡の危機に陥りました。神戸市からの資金注入で乗り切れたが、集客もコロナ前の6割、収入は8割程度となり、決算では赤字の見込みです。今回の赤字の主なものはコロナだけではなく、光熱費は1.7倍となりました。ポストコロナにおいて、懸念は、お金に余裕のある人だけがホールを利用することになるのではないかという危機感があります。午前中の話にもありましたように社会包摂、子育て中の若い家族に来てもらう、障碍者に来てもらうなど、幅広く取り組みたい。また、新しいホールについてもハコモノをつくるのではなく、どう人材を育成するかにも取り組んでいます。
■山下英之氏|兵庫県立芸術文化センター
当館17年のあいだ、年間50万人をお迎えしていますが、コロナの影響で臨時休館したあと、どう再開するかを模索しながら今日に至っています。デジタルという話が出て、芸術監督の佐渡裕も模索したが、リアルの空間、ライブの重要性は代えがたい、として、今後ともライブを演じる劇場を追求したいと思っています。配信とオンライン鑑賞、劇場に足を運ぶ共有体験は、技術的発展により、共存していけるのではないか。これまで来場されなかった方への広がり。共時性,共空間性を持つ劇場を続けていきたい。ではどんな風に維持していくのか。お金の問題もあり人の問題もあるし、メンテナンスの問題もあるが、こういったものを誰が支えていくのか、社会的議論がいると考えます。社会的議論のうえで、劇場という共有財産をどう維持するかへの合意がいるという時代になっているのではないでしょうか。
■園山土筆氏|松江市八雲林間劇場 しいの実シアター
11月5日から13日まで松江森の演劇祭を開催していました。設置自治体の職員が、劇場の価値がどれほど重要か自分で経験するか。職員が家族で、奥さん子供さん親を誘ってくるのが大切なことだと考えます。また、資金を、わたしたちが自分たちで集めることも、今後重要になるのではないでしょうか。松江市は文化振興条例を完成しました。これは、松江市が本気になって作った条例です。これによって真剣に動き始めたと思いました。演劇祭終了時には、座談会も行い、非常に重要な体験となりました。市の文化振興課も手伝ってくれる中で、運営本部のスタッフの丁寧な説明、サポートを御覧になって、自らも同じように丁寧なサポートをしてくれました。これによって劇場がどれだけ本気でやっているか伝わったのではと考えます。
■久保山雅彦氏|北九州芸術劇場
2003年に開館し、20年経ちました。いかに改修していくかも課題です。皆さんが仰るのと同じように、利用者の高齢化も進んでいます。市の政策的な臨時休館で、活動がゼロになりました。開館後も、コロナの影響を懸念して足が遠のく、或いは各地の公演が来られなくなるなどのこともあり、2021年には計画事業の半分が実施出来た状況です。課題となったのは、公演を予定していた人々の投資が赤字になることでしたが、市との共同で負担を幾らは減らすことは出来ました。一方、費用はともかくアーティストからは生の公演を届けたいという声があがり、市と共同で、配信設備に関する補助金を整え、オンライン配信を実現するための仕組みを作りました。直近では、公演も9割方回復、創造事業、アウトリーチなども実施出来るかたちになってきました。感染拡大防止に気を付けながらやり遂げるというのが大きな課題です。
■齋藤譲一氏|日本劇場技術者連盟
各館、パンデミックの中で、苦労なさっていることはつくづく感じています。それでも秋頃から観客が戻ってきているように見受けます。今日は国立能楽堂での本番を終えたばかりですが、お客さんの帰る姿が生き生きとしていました。オンラインへの取り組みなど色んな苦労をしてこの2年半繋いできました。お客様が完全に戻ってきたわけではないのかもしれませんが、先日は、しいのみシアターに伺いまして、市民と共につくり上げていく、公的劇場で市民が参加しながら作っていくことへの期待が膨らみました。パンデミックを乗り越えて、様々な作品が生まれるだろうとも考えます。
■津村卓氏|地域創造
基調講演を伺い、ヨーロッパにおける政治的背景、イデオロギー、考え方や方向性は違うが、ベースは同じであるなと思いました。規模は違いますが、わたしたちも同じように方向性を訴えてきました。なぜ今、公共が文化芸術を政策の一つとして取り上げているかというと、世界の分断とか対立、地域環境創造の問題に対して、移民については、日本にはその意識はあまりないかもしれないのですが、貧困は必ず起こってくる。それに対して従来でのアジェンダでは解決しない、そのためには、文化芸術の力が使えるのではないか、というのが大きなポイントではないかと思います。また園山さんのところ以外は、公共の財団が運営していると思います、公共財団とは施設の管理運営をするためにつくったのでしょうか。地域の文化政策を進めるためにつくったはずではなかったしょうか。パンデミックのような大きな問題で露出したことが大きくなりました。地域文化を振興するという時期に来たのではないかと思っています。もちろん、財団は劇場を運営しているので、地域の劇場が地域の文化拠点になっていくのではないかと思っています。コロナで動けなかった3年間に動けなかったところは、実は3年分前に進んだのではないかと考えます。そのなかで、地域の文化政策を拠点となってすすめていく。拠点の劇場が課題や未来を考えたコンテンツを考えて、行政にわたし、行政がどうつかっていくかが、劇場の大きな役割ではないかと思います。
■永山恵一氏|政策技術研究所
大変示唆に富む発表に、日本の文化施設をこんなにも力のある人たちが担っているのか、と実感しています。コロナ禍の影響には、コロナ禍以前から抱えていた課題が、あぶり出されてきたようにも感じています。例えば、来館者層の特定層化の課題なども改めて認識されてきましたが、日本の舞台芸術の拠点でもある東京文化会館では、コロナ以前から施設のあり方を見直し、高齢者まで一生付き合える施設になろうということを掲げています。様々なプログラムを組み、人材育成を行っています。コロナ禍を経て、各地でもそういう取り組みが進んでいくことで劇場の一般の人の見方が変わってきて欲しいと思います。もう一つ、この間に起きたこととしえ、人材不足と東京再集中があると思います。ポップスに顕著ですが、コロナで人材が流出して、特に舞台技術人材に関して、地方は困っているのではないかと思います。一方、コロナ禍でも東京は様々なホール施設の整備が進み、文化芸術の東京集中が進みそうな雰囲気です。これを何とかするというのも、かねてより言われてきたことです。
コロナ禍でWEB会議が増えて、地方の方と直接話す機会も増えました。そこで地域のために働こうという人材が沢山いることを実感しました。各劇場でオリジナルな作品制作がなされていますが、それらは、その劇場を訪れないと見る機会はありません。配信については、様々な批判もありますが、地方こそ配信をやるべきではないかと考えています。配信での鑑賞は劇場でのライブな鑑賞とは別なものと考えられます。ライブを「鑑賞」と呼ぶなら、配信は「確認鑑賞」と言えるのではないかと考えます。さらに、交流人口に対して関係人口という概念がありますが、WEBでの鑑賞者を「関係鑑賞者」と位置づけ、劇場には来なくとも、関心を持ってWEBで見てもらう、そういった「関係鑑賞者」を育てることが重要になっていくと思います。それぞれの地方、地域の劇場から全国に発信して、その地域の劇場を全国的にも知ってもらうことができます。それが具体的な支援につなげることも考えられます。
全国の地方ラジオ局の番組を提供している「ラジコ」の仕組みがありますが、同様の仕組みで地方の優れた活動を共有することができないだろうか。横連携のコンソーシアムを組んで、地方の劇場を牽引していくことができないだろうか。東京発の文化芸術の流れとは別な、地方発の仕組みができないだろうか。立地する地域の人口は小さいけど、多くの「関係鑑賞者」がいる劇場ができるのではなだろうか。そういった視点から、コロナ禍以降の地方の劇場の可能性を、配信を通じて追及してみてはどうかと思っています。
17:20ー17:30 クロージングリマークス Closing remarks
■Part Ⅱ |コロナ禍を超えて ~新たな視点
Beyond the pandemic crisis : A new perspective
14:10ー15:40 海外招聘パネリストによる基調講演 Keynote speech|同時通訳 (日英)
14:10ー14:55 政府と劇場:コロナ後はどうなる? ヨーロッパの視点から
Governments and Theatres: What is Next After Covid? A European View.
クサビエ・グレフ名誉教授 Prof. GREFFE, Xavier
(パリ第一大学 University Paris I)
14:55ー15:40 劇場、コンサートホール、文化センター:ドイツにおける日常生活及び都市発展の灯台/礎
Theatres, Concert Halls and Socio-Cultural Centres
Light Towers and Corner Stones of Urban Life and City Development in Germany
クラウス・クンツマン名誉教授 Prof. KUNZMANN, Klaus R.
(ドルトムント工科大学 Technical University of Dortmund)

※登壇予定のオム・セギョン氏はご欠席となりました
国際シンポジウム「劇場の未来を考える~課題解決型シアターマネジメント2022 ―危機を乗り越えるために―」International Symposium 2022 "The future of theaters: Beyond the pandemic crisis"
■概要
日時 2022年11月 16日(水)10:00‐17:30
場所 Zoom | Webinar
対象 本事業研修生及び協力劇場、関係者
趣旨 公共劇場における国内外最新の動向についての情報共有の場として、各劇場の現状を整理し、課題の把握、評価の有効性や活用、 自己評価の試行等に関する議論を行う。
■プログラム
10:00 - オープニングリマークス Opening remarks
垣内 恵美子名誉教授 Prof. KAKIUCHI, Emiko (GRIPS)
■Part Ⅰ|劇場が直面する課題
Issues facing theaters
10:00-11-55 非公開:closed session
各劇場プレゼンテーション<7劇場×15分>
最前線からの報告 Reports from frontline
①10:10ー10:25 札幌コンサートホール Kitara Sapporo Concert Hall Kitara
②10:25ー10:40 日立システムズホール仙台 Hitachi Systems Hall Sendai
③10:40ー10:55 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 Niigata City Performing Arts Center “RYUTOPIA”
④10:55ー11:10 神戸文化ホール Kobe Bunka Hall
⑤11:10ー11:25 兵庫県立芸術文化センター Hyogo Performing Arts Center
⑥11:25ー11:40 松江市八雲林間劇場 しいの実シアター Yakumo Forest Theatre Shiinomi Theatre
⑦11:40ー11:55 北九州芸術劇場 Kitakyushu Performing Arts Center
■Part Ⅱ |コロナ禍を超えて ~新たな視点
Beyond the pandemic crisis : A new perspective
14:10ー15:40 海外招聘パネリストによる基調講演 Keynote speech|同時通訳 (日英)
14:10ー14:55 政府と劇場:コロナ後はどうなる? ヨーロッパの視点から
Governments and Theatres: What is Next After Covid? A European View.
クサビエ・グレフ名誉教授 Prof. GREFFE, Xavier
(パリ第一大学 University Paris I)
14:55ー15:40 劇場、コンサートホール、文化センター:ドイツにおける日常生活及び都市発展の灯台/礎
Theatres, Concert Halls and Socio-Cultural Centres
Light Towers and Corner Stones of Urban Life and City Development in Germany
クラウス・クンツマン名誉教授 Prof. KUNZMANN, Klaus R.
(ドルトムント工科大学 Technical University of Dortmund)
15:40ー16:00 休憩 Break
16:00ー17:20 ラウンドテーブル Roundtable
(including directors of collaborating theaters, advisory members and panelists)
(協力劇場館長、アドバイザリー、協力研究者)
17:20ー17:30 クロージングリマークス Closing remarks
【関連ページ】
■国際シンポジウム2022
https://www.culture.grips.ac.jp/symp2022
■令和4年度 文化庁事業
https://www.culture.grips.ac.jp/project2020
■2017年度-2019年度 ハンドブック