2020年12月18日(金)、令和2年度「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発 自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」協力劇場のみなさまをお迎えし、「劇場の未来を考える~課題解決型シアターマネジメント2020(The future of theaters: Beyond the pandemic crisis)」を開催しました。
PartⅠに続き、PartⅡについて、ご報告いたします。

■概要
本事業初年度となる今回のシンポジウムでは、COVID-19により大きく変化した昨今、公共劇場における国内外最新の動向についての情報共有の場として、各劇場の現状を整理し、課題の把握、評価の有効性や活用、自己評価の試行等に関する議論を行った。PartⅠでは、本事業研修生による「劇場が直面する課題」として各劇場からの事例報告、PartⅡでは、現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告」として、専門家による緊急報告を主とした二部構成とした。
■Part Ⅱ |現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告
Adverse effects of COVID-19 in Europe and France and contingency plans for artistic activities
<特別講演|同時通訳(日英)>
■フランス:コロナの影響と芸術活動(緊急報告)|パリ第一大学 名誉教授 クサビエ・グレフ氏
クサビエ・グレフ名誉教授は、ロックダウン解除直後のフランスからの参加であった。
緊急報告として、フランスでの事例を軸に、欧州での現状について講演した。この話題を取り上げることはとてもかなしい、と、冒頭で告げ、経済活動において「文化」「芸術」は最大の打撃を受けている領域かもしれない、と、欧州におけるCOVID-19の影響を述べた。文化は、この20年の間に大きな進展を遂げてきたが、現在、欧州でのGDPは低迷し、これまでと同じやり方では立ち行かなくなるものもあろう、美術館や博物館は「動かせない」場であることから、公演活動の中止、文化施設の閉鎖など、苦しい立場にあるとした。第一波を凌いだところを、第二波に見舞われ、(2021年)1月末には回復出来ると期待していたものが、いよいよ破綻し、沈黙したまま閉じてしまう場所もあるだろうと憂慮した。一方で、書籍、ゲーム、配信サービスなどは増収傾向にあること、2020年3月以降のNetflix (ネットフリックス)の欧州での躍進、また欧州では文化活動に含まれるVideogame(ゲーム)、玩具等の普及について触れた。そして、欧州各国、各自治体における文化への歳出、雇用にかかる補助金などの制度について言及し、通年雇用を守るための制度に関して、2021年1月までの延長、また10億ドル近くの補助金が提供されること、フリーランス、パートタイマー、中小事業主に対しても7億ユーロが用意されたこと、また、事業支援として、企業の売り上げを担保するための方策で1500億ユーロ、うち20億ユーロが文化産業に充てられ、それが文化に対しての直接的な支援になろうと述べた。フランスでも観光客が激減し、ルーブル美術館でも売り上げは落ち込んだが、もとより収益の4割は国内からの来館者によるものであり、現在、美術館はこの時期を利用して改修、整備を行っているという事例を挙げ、イギリスでは、文化産業、クリエイティブ産業に対して手厚い支援が行われていることなどを紹介した。

続いて、文化活動における多様性として、ストリーミング配信などについて、欧州での傾向を述べた。
パンデミックにより、閉鎖された劇場・施設には観客は足を運べなくなってしまったが、配信を主体とする企業、無償、有償のサービスも生まれ、ラジオやテレビと連携して、パフォーマンスを提供する機会も生まれた。が、無観客ではパフォーマンスを行いたくないというアーティストの主張、また、再開の折には観客が戻ってくるように仕掛けなければならない、配信はあくまで広告宣伝として活用すべき、などといった主張もあり、フランス、スペイン、ドイツでも同じような議論が行われている。人々の活動は「不要不急」「必須」と分けられ、様々な措置が図られるようになった。パンデミックが終息すればまた同じ日々が戻って来ると信じているかもしれないが、自身は、そのようには考えていない、としたうえで、日本との比較は難しいかもしれないが、これまで見てきた20年間のトレンドとは異なる状況が起きていると語った。例えば、アメリカでは、数多の文化的活動、イベントが、公共の電波で無償で提供され、ネット上にあふれ、家に居ながらにしてそのパフォーマンスをたのしむ方向に進んでいることから、いずれ日常を取り戻せたとしても、ライブパフォーマンスに観客は戻ってこないかもしれない、という危惧もある。また、若年層における傾向としては、SNSが文化を知るためのネットワークになっており、伝統的メディアがソーシャルプラットフォームのような役割を求められるようなことが起き、文化のメディア化、文化のプラットフォーム化が進んでいる、と指摘した。
最後に、パンデミックの「遺産化」について述べ、あらたな知恵、「記念碑」をもたなければならないと語った。18世紀にもパンデミックを経験したという「記念碑」があり、私達も、今、生活の中で感じていること、何が起きたかを後世に伝えなければならないと語り、アーティストには社会における人々の連帯という価値を示して欲しい、文化についての議論を続けて欲しい、と、結んだ。
(クサビエ・グレフ教授「Cultural Activities A Covid Time」より)
■劇場ができること|公社 全国公立文化施設協会 岸 正人氏
「劇場ができること」として、「劇場、音楽堂等における新型コロナウイルス感染防止ガイドラインの策定」「公文協の対応策」「文化施設への支援策」など制度についての概説、また「コロナ禍長期化に伴う施設の課題」として、貸館事業、指定管理制度の弊害など、全国的の文化施設における主な動きについて、ご報告いただき、長期化を見据えた運営の必要性、若手アーティストへの支援についても言及した。

■劇場ができること-兵庫・芸術文化センターの挑戦|兵庫県立芸術文化センター 副館長 藤村 順一氏
「劇場ができること」として、兵庫県立芸術文化センターでの具体的取り組み、今後の課題についてご紹介いただいた。劇場再開以降、「すみれの花さくプロジェクト」や動画配信などから、第一段階として先ず舞台を動かすことを始め、劇場は眠らないと言う想いのもと、科学的検証をふまえながら、段階的に展開するという貴重な事例であった。何をするにしても県民と共に歩むという基本姿勢で臨みたいと、つよい意思を示し、同時に、アーティスト育成についてもその重要性に触れた。

■質疑及びディスカッション| 一社 日本劇場技術者連盟 理事長 齋藤 讓一氏
一財 地域創造 プロデューサー 津村 卓氏
PartⅠ、PartⅡをふまえ、本事業アドバイザリー両氏がコメントを寄せた。
齋藤氏は、COVID-19による状況を深刻に受け止めながら、「劇場関係者の御苦労は大変かと思いますが、いろんなアーティストが戻ってきたときに場を設けていただきたい。そのときにみなさんの力が必要なので、くじけないでいていただきたい。」「リモート、配信もすてたものではなく、20-30代からも反響があり、あたらしい顧客創出につながるのではないか。きっかけに、劇場に多くの人が足を運んでくれるように思う」「いまだからこそできること、立ち止まって足元を見つめ直し、劇場のあゆみを立ち止まって考えて、あらたな目標をもって進むことが重要」とエールを送った。
津村氏は、 アーティストが首都圏に集中する現状を鑑み、「それぞれの地域にアーティスト、コーディネーター、プロデューサーをつくっていくということ、それを地域でつくりつづけないといけない、その核が劇場である。地域、アーティスト、プロデューサー、コーディネーターをじっくり育成していくということを、本気で向き合っていくことをこれからの事業として進めていかないといけない」と、各地域でのアーティスト育成について語り、アートが社会に与える力の重要性を説いた。

■クロージングリマークス 垣内恵美子(GRIPS 教授)
今回はCOVID-19と言う未曽有の危機の中でどのように将来を考えていくがテーマとなっていました。COVID-19の前からあった課題が顕在化した、以前の取組みが進んだ。よりよいかたちでつづけていくつかのビルドバックベターを考えていくことになるのかなと考えている。多岐多様なことを議論いただきましたので、次につなげる糧としていただければと思っている、と、総括した。
文化政策コースとしては初のウェビナー開催でしたが、おかげさまで、滞りなく実施することが出来ました。
研修生のみなさま、協力劇場のみなさま、ご登壇くださった先生方、また、ご参加・ご協力いただきましたみなさまに、深く感謝を申し上げます。
引き続き「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発~自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」をよろしくお願いいたします。

■プログラム
13:00 - オープニングリマークス 垣内恵美子(GRIPS 教授)
Part Ⅰ|劇場が直面する課題
Issues facing theaters including possible COVID-19 counter-measures 13:15 - 15:15 <6劇場×20分> 現状紹介と情報共有&課題の議論 ①13:15-13:35 札幌コンサートホールKitara ②13:35-13:55 日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター) ③13:55-14:15 神奈川県民ホール ④14:15-14:35 神戸文化ホール ⑤14:35-14:55 三重県文化会館 ⑥14:55-15:15 松江市八雲林間劇場しいの実シアター
Part Ⅱ |現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告
Adverse effects of COVID-19 in Europe and France and contingency plans for artistic activities 16:00-17:00 特別講演|同時通訳(日英)
16:00ー16:30 フランス:コロナの影響と芸術活動(緊急報告)|クサビエ・グレフ氏 (パリ第一大学 名誉教授)
16:30ー16:45 劇場ができること|岸 正人氏 (公社 全国公立文化施設協会)
16:45ー17:00 劇場ができること-兵庫・芸術文化センターの挑戦|藤村 順一氏 (兵庫県立芸術文化センター 副館長)
17:00ー17:25 質疑及びディスカッション
齋藤 讓一氏 (一社 日本劇場技術者連盟 理事長)・津村 卓氏 (一財 地域創造 プロデューサー )他
17:25ー17:30 クロージングリマークス 垣内恵美子(GRIPS 教授)
主催:政策研究大学院大学公共政策プログラム文化政策コース
企画・運営:ディレクター・教授 垣内恵美子 研究助手 小川由美子/コーディネーター 深川智美・中野真実
(令和2年度 | 文化庁 | 大学における文化芸術推進事業「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発~自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」)
2020年12月18日(金)、令和2年度「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発 自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」協力劇場のみなさまをお迎えし、「劇場の未来を考える~課題解決型シアターマネジメント2020(The future of theaters: Beyond the pandemic crisis)」を開催しました。
ご参加・ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

■概要
本事業初年度となる今回のシンポジウムでは、COVID-19により大きく変化した昨今、公共劇場における国内外最新の動向についての情報共有の場として、各劇場の現状を整理し、課題の把握、評価の有効性や活用、自己評価の試行等に関する議論を行った。PartⅠでは、本事業研修生による「劇場が直面する課題」として各劇場からの事例報告、PartⅡでは、現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告」として、専門家による緊急報告を主とした二部構成とした。
■オープニングリマークス|GRIPS教授 垣内恵美子
開会にあたり、2017年度より3か年をかけて取り組んだ「課題解決型のシアターマネジメントに向けた次世代リーダー育成のためのプログラムの開発」の成果を紹介するとともに、2020年度からの本事業について概説したうえで、本シンポジウムの趣旨を述べた。主体的な自己評価に向けた課題整理、劇場が考えていることを共有するためのPart1、国際的な潮流としてCOVID-19に対する対策を含めて緊急報告を行うためのPartⅡであることを確認し、国内外の劇場で、どのようなことが行われているかを伺いたい、と、述べた。
■PartⅠ
主体的な自己評価に向けた課題整理、各劇場の取り組み等を共有するために、今年度協力劇場より6施設、7名の研修生が発表を行った。ここでは、地域の特色、文化的背景をふまえた設立経緯、運営方針、施設や組織等の概況をはじめ、主な事業について説明したのち、緊急事態宣言下での閉館や、そこから再開にかけての取り組み、今後の事業展開など、具体的な事例をご紹介いただき、COVID-19による影響・対策などを共有した。
研修生の発表のなかで、印象に残ったものをいくつか紹介する。
「来場者の維持と新規開拓。ブランド力を高めることから、あらたな客層の開拓、若年者向けの事業の実施などへ移行しようとしている」「ニューノーマルに即した試行錯誤は、今後も必要ではないか」(札幌コンサートホールKitara)、「継続性を担保できておらず、根付いたものを育てていくための仕組みづくりが必要ではないかと考える」(日立システムズホール仙台)、「ホールの位置づけから、多目的であるこその価値は、コロナにより今後どこへ向かうのか」(神奈川県民ホール)、「このような社会でホールはどのような可能性をもつのか、文化施設の役割を探りたい」(神戸文化ホール)、「安全、安心を最優先に、感染症対策は喫緊の課題。コロナ禍下でうまれた企画もある」(三重県文化会館)、「劇場まわりの環境整備実施で、市民により親しめる空間づくりに努め、原点に立ち戻る思いがした」(しいの実シアター)。
各劇場とも、今出来る感染対策への取り組みのみならず、地域との連携、芸術家への支援など、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」へ向けた模索を続けている。また「動画配信によるコロナ禍における閉塞感の払拭、演奏機会の創出という成果の一方、質の高い配信コンテンツ作成にかかる課題として著作権問題、事業費の増加」「対策を講じるための費用、労務の負担が大きい」など苦境にありながらも、「オンライン配信であらたな観客創出に挑む」「本来の劇場の役割を考える機会となった」と、この状況を前向き捉える声もあり、文化の力、芸術の力を今こそという強い意志を感じさせられた。
●
PartⅡは、後日ご報告いたします。
■プログラム
13:00 - オープニングリマークス 垣内恵美子(GRIPS 教授)
Part Ⅰ|劇場が直面する課題
Issues facing theaters including possible COVID-19 counter-measures 13:15 - 15:15 <6劇場×20分> 現状紹介と情報共有&課題の議論 ①13:15-13:35 札幌コンサートホールKitara ②13:35-13:55 日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター) ③13:55-14:15 神奈川県民ホール ④14:15-14:35 神戸文化ホール ⑤14:35-14:55 三重県文化会館 ⑥14:55-15:15 松江市八雲林間劇場しいの実シアター
Part Ⅱ |現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告
Adverse effects of COVID-19 in Europe and France and contingency plans for artistic activities 16:00-17:00 特別講演|同時通訳(日英)
16:00ー16:30 フランス:コロナの影響と芸術活動(緊急報告)|クサビエ・グレフ氏 (パリ第一大学 名誉教授)
16:30ー16:45 劇場ができること|岸 正人氏 (公社 全国公立文化施設協会)
16:45ー17:00 劇場ができること-兵庫・芸術文化センターの挑戦|藤村 順一氏 (兵庫県立芸術文化センター 副館長)
17:00ー17:25 質疑及びディスカッション
齋藤 讓一氏 (一社 日本劇場技術者連盟 理事長)・津村 卓氏 (一財 地域創造 プロデューサー )他
17:25ー17:30 クロージングリマークス 垣内恵美子(GRIPS 教授)
主催:政策研究大学院大学公共政策プログラム文化政策コース
企画・運営:ディレクター・教授 垣内恵美子 研究助手 小川由美子/コーディネーター 深川智美・中野真実
(令和2年度 | 文化庁 | 大学における文化芸術推進事業「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発~自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」)
文化政策コース
特別セミナー2020文化を巡る政策最前線
2020年12月17日(木)(第71回)は「重要伝統的建造物群保存地区でのまちづくり」をテーマに嶋田洋平氏をお招きし、お話をお伺いしました。
<受講者による感想>
嶋田先生、講義していただき、ありがとうございました。
妻の父が福井県越前市粟田部町で「蓬莱祀(おらいし、http://www.oraishi.jp/)」を復興した方で、その父から衰退していく粟田部町を活気づけたいという話を聴いていましたので、嶋田先生が取り組まれているリノベーションまちづくりについてお話を聴くことができ、大変勉強になりました。また、情報都市の吉田社長さんが福井出身とのことでしたので、とても嬉しく思いました。
リノベーションまちづくり は、国土交通省における高齢者住宅・子育て支援住宅、都市再生機構における地方都市再生、民間による住宅団地再生等と並ぶ大事な取組みであると感じました。
仕事ではリノベーションまちづくりに直接関わることはありませんが、嶋田先生からお聴きしたことを活かして、統計調査業務等を行いたいと思います。ありがとうございました。
農業政策コース 當瀬(派遣元:農林水産省)
※参考図書 嶋田洋平「ほしい暮らしは自分でつくる ぼくらのリノベーションまちづくり」(日経BP )
【第71回 開催概要】
■日 時 2020年12月17日(木)18:20-19:50
■会 場 Zoom
■講 師 嶋田洋平氏(株式会社らいおん建築事務所 代表取締役)
■題 目 「伝重要伝統的建造物群保存地区でのまちづくり 豊田市足助・泉佐野市佐野町場での取り組みを例に」
■内 容
伝統的建造物群保存地区制度は、1975年文化財保護法改正で導入された、人々の生活と文化財保護の共存を目指す画期的な制度である。歴史的な建造物をゾーニングし、生業の継続を可能とすることで、現在120超の地区が選定されている。重伝建は、国内外の観光資源としても大きな注目と期待を集めているが、一方で、人口縮退や空き家問題等の課題にも直面する。今回は、リノベーションまちづくりの第一人者 嶋田洋平氏を迎え、豊田市足助および泉佐野市佐野町場での取り組みをご紹介いただくと共に、今後の方向性について議論する。