特別セミナー2018/文化を巡る政策最前線(第57回)開催報告
文化政策コース
特別セミナー2018 文化を巡る政策最前線
2018年6月25日、松竹株式会社執行役員統括部長 船越直人氏をお招きし、特別セミナー(第57回) 「伝統芸能『歌舞伎』のインバウンド検証の現状」を開催いたしました。

<受講者による感想>
■台湾若手人材育成プログラム:研修生 魏逸瑩
船越部長のセミナーを通して、松竹が経営している歌舞伎座のインバウンド誘致の取り組みについてよく理解できた。松竹は、世界各地での公演数、観客動員数、人気演目等を踏まえて、サービス方法、情報発信のツール、新しいスタイルの演目等を検討している。調査によれば、歌舞伎座を訪れた観光客の出身国は、米国、日本、英国、豪州、カナダの順に多かったようである。そのため、現在では英語表記の充実、字幕ガイドの多言語化、英語による演目解説、KABUKI WEBの設置、広報手段の拡大等を進めている。インバウンド誘致対策にしっかりと取り組んでいる姿勢が伺える。
ただし、課題が二つ挙げられる。一つ目は、訪日客全体の約7割を占めた東アジア諸国・地域(中国、韓国、台湾、香港)からの観光客が歌舞伎を観に行かない傾向に対して積極的な対策を取っていないように見える。台湾出身の留学生の立場から見れば、それが大きな潜在市場であると考えられる。というのも、歌舞伎が日本を代表する演劇であるという認識は強く、日本の伝統文化が好きな東アジア諸国・地域出身者は少なくないからである。二つ目は、歌舞伎の観方、初めて歌舞伎を観る人には利用しやすい幕見席チケットの入手方法、歌舞伎の魅力についてあまり宣伝されていないと感じる。台湾人の場合、人気ブロガーの体験談を読むのが大好きである。もし今後、歌舞伎座が各国の人気ブロガーを活用し、歌舞伎観劇の体験を掲載してもらうことで売上が伸びる効果が期待できるのではないか。
最後に、この度、船越部長のお話から歌舞伎座のインバウンドに対する熱心な取り組みが伝わってきました。ぜひ観に行きたいと思います。貴重なお話をいただきありがとうございました。

<概要>
■研究助手:小川
日本へ訪れる外国人旅行者数は年々増加の傾向にあり、官民問わずその誘客や受け入れに向けた様々な取り組みが進められるようになりました。歌舞伎座においても例外ではなく、外国人客の取り込みは、あらたな観客層の拡大、マーケットの開拓という意味でも重視されるようになったと言います。しかしながら、「インバウンド対策」とはそもそも何であるのか。具体的な方策を図るためには、現状の解析が必要であるとし、松竹では、歌舞伎座の外国人客を対象とした観客データ収集及びその分析を図り、本講義では、その独自の調査と調査結果及びデータの検証、また第五期歌舞伎座における現在の試み、今後の課題などについてお示しいただくことが出来ました。
ご講義の中では、松竹の誕生から「KABUKI」のブランドネームを海外へ広めた歴史に始まり 、松竹と歌舞伎の関係から紐解き、近年取り組んできたインバウンド誘致についての現状をご紹介いただきました。歌舞伎座独自の調査データと共に、現場の声を織り交ぜながら、これまでに取り組んできた具体的な活動内容、これからの課題や課題解決のために必要なステップなどをお話しくださり、興行としての成功のみに留まらず、歌舞伎という文化の発信を通して、その継承や振興についても、使命と誇りを以て取り組んでいらっしゃる様子が大変印象的でした。聴講生からの質問にもご経験を踏まえた丁寧な回答をいただくことができ、大変貴重な機会となりました。ありがとうございました。