top of page

「劇場の未来を考える」スピンオフ企画 座談会@松江2022 Q&A

2022年11月14日しいの実シアターでの座談会時に頂戴したいくつかの質問について、回答が揃いました。

ご参加くださったみなさまからのコメントや、当日の会場風景は下記より御覧いただけます。


■座談会報告(参加者からのコメント掲載)

■座談会ダイジェスト版 

​ご質問

​回答

Q.1


・活動や施設の維持に必要な資金は世界的にどのような状況ですか?

・後継者の育成、人材育成は世界的にどのような状況ですか?

・先進的な取組事例があれば教えてください。


(井川様/松江市文化振興課)

​A.1


劇場の活動や支援の仕方は国によって異なりますが、一般的に公的支援によることが多いと思われます。劇場活動自体が営利活動で成立しないことが多く、公共性の観点から公的支援が必要とされています。(ボーモルボーエン「実演芸術のディレンマ」他ご参照ください。)具体的には、例えば、ドイツは分権国家ですので、地方自治体がそれぞれ施設を設置運営管理するとのことです(以下ウェブサイトをご参照ください。クンツマン講演)フランスは中央集権国家で、概ね日本と似たような設置運営とされています。地方の文化施設については地方自治体が設置運営管理を行っていると聞いております(グレフ著「フランスの文化政策」他ご参照ください)。近年は活動契約を締結することも多いそうです。一方、米国は国の成り立ちから、税制上の優遇措置と寄付(個人、企業を含む)による支援が大きな割合を占めています。この寄付税制は文化だけでなく、教育、福祉、スポーツなど非営利活動全般が広く含まれています。また、共和国ですので、基本、文化や教育は地方自治体が所管しますが、国レベルにもNEAという組織が1906年代以降置かれて、公的支援を行っており、紆余曲折がありつつも、地方政府への包括的支援も行っています。この支援の一部が、地方政府を通じて文化的な事業や活動に流れるという構図です。

後継者や人材育成といった担い手の確保はいずれの国においても、また、いつの時代においても、常に重要な課題であり、様々な取り組みがなされています。学校(例えばフランスでは大道芸やサーカス分野の人材育成のための教育機関を設けました)、さらに大学院での教育研修(米国はビジネススクールでもアート系のマネジメント人材を育成しています)など教育機関だけでなく、各団体、政府の研修プログラムなどもあります。劇場の公演活動には、キャストだけでなく、テクニカルスタッフ、舞台監督系、マネジメント系など多様な人材が必要であり、日本でも芸術系の大学や芸術団体、照明や音響で働く人々の協会での技術研修や、国、自治体、劇場など様々なレベルでの研修プログラム、自己研鑽のための助成金の提供など、多彩な支援が用意されています。

先進的な事例の趣旨がよくわかりませんが、ご当地のしいのみシアターの活動は、ユニークな取り組みとして、地域創造、国際交流基金その他多くの外部団体から顕彰されています。そちらもご参照ください。

​Q.2


劇場に関わる人の世代交代を円滑に行なっていくための、具体的な取組手法はどのようなものがあるのか。


(藤原様/松江市教育委員会)

​A.2


世代交代は、文化だけでなく、多くの分野の組織で重要な課題とされています。ドラッカーも、次世代リーダーは将来ではなく、今こそ育成しなくてはならないこと、さらに、経営チームを作ることの重要性を強調しています。ただ、それぞれ組織が異なり、一義的な解はなく、それぞれの組織文化や周辺環境など多様な要素を考慮しながら模索されるものであろうと思われます。人材育成については、質問1もご参照ください。

​Q.3


地域の発展、人々の心の豊かさを育むために劇場は必要不可欠だと思いますが、それを共有すること、継続していくことが大事だと考えます。そのためにどうすれば良いかをたくさんの人で考えていきたい(考えなければならない)と思います。特にこどもたちには小中一度ずつは演劇に触れてほしいです。

こどもが劇を観る前の下準備とかは何かあるのでしょうか?したらいいことは何かありますか?


(原田様/教育委員)

​A.3


観劇する作品に関することであれば、「何でもよし」と思っていただければと思います。

あらすじでも作者のことでも上演劇団のことでもなんでも。

野球や相撲やサッカーなどのスポーツでも解説があるとより楽しく期待感が増し、書や絵でも解説があればより深く知ることができ、西洋美術や古典美術などでも音声ガイドを使うとより深く楽しむことができます。

難しく考えないで、専門的でなくてよいので、知る限りのことを子どもたちに伝えてください。また、どんな分野でも「経験値」が大切です。できるだけ小さいときから、できるだけ多くの体験ができる環境を大人が作っていくべきと思います。

Q.4​


こどもの時に演劇にたくさん触れた子と、そうでない子、大人になってからどのように違ってくるのか、研究の成果等あれば知りたいです。

(山崎様)

​A.4


文化的な活動とその後の社会的階級に関する最も古典的な研究としては、1970年代に提唱された文化資本に関するブルデューの研究があります(ブルデュー「ディスタンクション」)。いわゆる「文化資本」のうち、文化的活動などを通して身についた「ハビトゥス」は、子供たちが学業上での成功することとともに、その後の社会的・経済的成功にもつながる重要な要素であるとされ、この考え方はその後の研究でも繰り返し確認されておりますが、解釈の仕方はいろいろあるかと思います。

また、米国では、少年院などに収監された子供たちの再犯率が、音楽や演劇、美術などの芸術体験をすることによって大幅に低下するといった研究結果も多くあります(https://www.artsedsearch.org/study/whole-brain-learning-the-fine-arts-with-students-at-risk/、ただ、再犯率を下げる観点からは、芸術だけでなく、スポーツや、盲導犬のブリーダーなどのボランティア活動も同様の効果があるようです。

Q.5


・コミュニティシアター(ルーラルシアター)は、フランスの80年代文化政策によるディセントラリゼーションによって、盛んになって財政基盤を強くできたのか?(日本は首都圏への一極集中が進んでいるが、フランスは地方分散によって地方でも文化が活発になっているのか?)

・しいの実シアターがコミュニティシアターかつイベントシアターをして地域に根付くために何が必要か?特に行政サポート、地域連携について。


(稲田様/桜美林大学)

​A.5


ルーラルシアターは、そもそも地方自治体が設置管理運営しており、ディセントラリゼーションとは関係がないとのことです(グレフ教授確認)。なお、日本においても劇場音楽堂は、その定義にもよりますが、地方自治体が設置したものが94%以上となっており(社会教育調査)、地方分権の流れの中、1980年代から90年代にかけて、主として地総債などの制度的仕組みにより多く建設されました。芸術団体や芸術家は確かに東京に集中していますが、施設はむしろ文化インフラとして地方に広く設置されているのが現状と思われます。例えば社会教育調査による劇場音楽堂などの施設数だけを見ると、人口10万人当たりの比較では、島根県では約2.8、東京都は約0.9です。

ご来場いただきましたみなさま、松江市のみなさま、あしぶえのみなさま、ありがとうございました。

特集記事