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開催報告| 文化庁事業|ラウンドテーブル@松江

2022年11月14日(月)座談会@松江市を開催いたしました。


フランスより、クサビエ・グレフ名誉教授(パリ第一大学)をお招きし、「第7回 松江・森の演劇祭(2022年11月5日-13日)」メイン会場でもあるしいの実シアターでの、現地開催を実現。「劇場の持つ文化力を次の世代につなげていくために、今、何をしたらよいのか」をテーマに、PARTIでは「Will Theatre survive in the digital age?: its timeless role」として、デジタル化の進展を踏まえつつ、改めてライブの価値、劇場が地域にとってどういう存在なのか、フランス、ヨーロッパでの事例紹介を交え、グレフ先生にお話いただきました。PartⅡでは、グレフ先生に加え、専門家、行政官、しいの実シアター館長からなるラウンドテーブルを開催。会場には近隣住民のみなさまをはじめ、県外からも多くの方にお運びいただき、盛況のうちに幕を閉じました。

 

オープニングリマークス 垣内 恵美子(GRIPS)

本事業ディレクター垣内名誉教授が開会のあいさつを述べ、全国における公立劇場について概説、しいの実シアターの特徴を整理しながら、本座談会の趣旨を説明いたしました。


「しいの実シアターでは昨日まで国際演劇祭が開催されていました。本学が実施した住民調査によると、松江市民の約8割を超える人々が、この演劇祭を異文化に触れる機会を提供し、松江を世界に発信する「世界への窓」として高く評価しています。劇場は、人々が集う身近にある大切な地域拠点ですが、チケット代だけで成り立つものではありません。だからこそ、地方自治体が設置し、運営を支えています。しいの実シアターも松江市立の劇場です」


ご挨拶 上定 昭仁氏(松江市長)

松江市長上定 昭仁氏より、ご挨拶をいただきました。

「しいの実シアターは、平成7年の公設民営演劇専用の劇場として誕生しました。平成11年より国際演劇祭が開催され、今年も9日間にわたって7回目の演劇祭が開催されました」と、劇場の誕生から森の演劇祭について触れ、開催期間中に足を運ばれた際のご感想をお話くださいました。



ラウンドテーブル PART1

Will Theatre survive in the digital age?: its timeless role

デジタル時代の劇場:時代を超えた役割|クサビエ・グレフ 氏(パリ第一大学 名誉教授)


PartⅠでは、「デジタル時代の劇場:時代を超えた役割」と題し、クサビエ・グレフ名誉教授による基調講演を行いました。一般的に、デジタル化によって、より多くの人々にそのサービスを提供できる可能性もあるとされます。優れた舞台芸術を守り、より良いものにするため、劇場がデジタル技術を活用することの可能性について言及しました。


<概要>

劇場は、最も古い芸術形態のひとつであり、視覚表現を介して、物語を語り、解釈することで、人々が互いに知りあい、よりよく理解しあい、また何か共通するものをつくる貴重な体験を提供する場でもあります。しかしながら、現在、劇場は危機に瀕しているともいえるでしょう。劇場運営には困難が伴い、(CDやDVDなどのように)デジタル化することで価格を下げられる他の芸術活動とは異なり、劇場は、機械化やデジタル化の恩恵受けることがなく、結果として、消費可能な分野との厳しい競争に晒されているのです。

 

劇場にはいくつものタイプがあり、ここでは、3つのタイプ「ブランド型劇場」「イベント型劇場」、そして地域の生活に根差した「地域劇場」とします。地域劇場は、特に農村部に位置する「ルーラルシアター」が象徴的に示すように、とりわけ存続の危機に瀕しています。多くは規模の小さな劇場だが、これらの劇場は、その革新性で危機に立ち向かい、地域コミュニティの活力の源として活動を継続しようとする意欲に満ち、様々な創造の場をつないで、住民参加のもとに新しい価値を創り出そうとしている。これらの劇場とデジタル化は相いれないものなのでしょうか。デジタル化は、一般的に、文化の(創造ではなく)消費を拡大し、人々を分断するものであると言われています。だが、このデジタル化は、劇場を窮地から救うことができるのではないでしょうか。一見、逆説的な問いだが、答えは興味深い。デジタル化により、誰もがアクターであり、かつ聴衆にもなりうるのです。この意味で、「第4の壁」(ドゥニ・ディドロの演劇論において、「観客と演技者との間にある目に見えない壁」をいう)を取り払うことができます。他方、デジタル化は、舞台芸術を新しい聴衆に届け、新しいテーマや作品を地域に関心を持つ住民とともに作り出すことに貢献できるかもしれません。さらに、デジタル化を進めることによって、劇場は対話の場となり、創造性をはぐくむ拠点となり、芸術以外の雇用や活動を地域に生み出す資源ともなりうる可能性も考えられるでしょう。



PART2 ラップアップ:劇場が地域社会にできること

登壇者:クサビエ・グレフ氏/園山 土筆氏/齋藤 讓一氏/松尾 純一氏

コーディネーター:垣内恵美子


ラウンドテーブルでは、国内外から専門家を交え、改めて地域に立脚する劇場の意義について、基調講演での指摘も踏まえながら、今後の方向性を探るべく意見交換を行いました。

しいの実シアター園山館長からは、しいの実シアターが具体的に松江市で展開されている事業についてご紹介いただき、その成果や課題、今後の展望などを共有しました。続き、舞台芸術制作に長年携わってきた斎藤先生からは、舞台芸術を巡る状況全般とともに、しいの実シアターの活動への思いを語っていただきました。12,13日は、齋藤先生、グレフ先生ともにしいの実シアターでの森の演劇祭に参加、舞台公演を拝見し、ボランティアやアーティストなど多くの方々との交流体験も踏まえてお話しいただき、また、市の文化政策推進の要である松尾部長から市の政策の概要や今後の展望、しいの実シアターに期待することなどをお話しいただきました。しいの実シアターは松江市立の劇場であり、設置者としての松江市では、現在文化振興のための条例、基本計画、さらに実施計画を策定、現在、文化力を生かしたまちづくりに向けて種まきの真っただ中です。それぞれのお立場から、これまでの取り組み、これからへの期待を込めたあつい思いを語らいました。


ご来場いただきましたみなさま、松江市のみなさま、あしぶえのみなさま、ありがとうございました。

 

ご参加のみなさまからお寄せいただいたコメントから、一部をご紹介します。

(当日配布した質問票にご記載いただいたもののうち、掲載可分のみ)

興味深く伺いました。企画実現までのご尽力に深謝。世界は一様ではなく常に創造の場に、つまり提供なさっているお立場の方ですが、今これから未来を見据えるだけのセンスと力量が問われています。ついついしいの実シアターと重ねがちになりましたが、これまでのままであってはならない。ヒトの社会は常に流動性を伴うものです。公共の政策をこの日本においてどう具現化するかー。提唱団体の発信に島根在住の者として注視したい。

今まであまり劇場に触れたことがなく、「劇場」という言葉もなんとなく遠い存在のように思っていました。そんな中で、こども家族で楽しめる「森の演劇祭」の取り組みは素晴らしいなと思いました。演劇が次第に「公共性」を持ちはじめた…というお話が特に印象的でした。

​地域課題や松江市の歴史を舞台にした演劇なら、多くの市民も楽しめるのではないでしょうか。共創のまちづくりの…題材ではないでしょうか。

​松江城授業のように、小学生が在学中に一度はあしぶえのワークショップに参加できるような授業プロジェクトを作ることで、演劇の裾野を広げられるし、児童ひとりひとりが「心のたべもの」を味わうことができます。劇場がある地域として、松江市ならではの取り組みにつながると思います。

​地域の発展、人々の心の豊かさを育むために劇場は必要不可欠だと思いますが、それを共有すること、継続していくことが大事だと考えます。そのためにどうすれば良いかをたくさんの人で考えていきたい(考えなければならない)と思います。特にこどもたちには小中一度ずつは演劇に触れてほしいです。

​<Part1>「劇場」というもの、その役割、現状、評価、可能性等について改めて考えるよい機会を与えられました。現実的、具体的に「しいの実シアター」に当てはめ、重ねて、思いを巡らせました。(スタンダードな良いお話でした)

<Part2>松江の「文化費」をアップするために、行政力も民間力にも課題が多いと思います。しいの実シアター(あしぶえ)の発展を祈るのみです。ありがとうございました。

日本には昔から神楽や農村歌舞伎、田楽などがあり、芝居や劇場は身近なものだったと思います。このような土壌をうまく活かしながら、新しい劇場との関わりや支援の仕方を考えていけると思います。

​劇場を地域の発展に役立てるという発想は素晴らしいと思った。

​こういった劇場に関するお話を聞くのは初めてでしたが、いろいろな立場の方が独自の視点から、各々の信念を持って活動されているのだと伝わりました。貴重なおは話を聞けて良かったです。ありがとうございました。

​地方?地域の方々と一体になり、共に盛り上げるしいの実シアターって素敵です。町屋?(読めず)主体となれば長続きもするでしょうし、町屋?とのウィンウィンも生まれますね。地元に好かれること大事ですね。

出雲弁での劇も見たいです。昨年雪女の出雲弁訳を見ることができまして、難しさもありましたが、雪女も出雲弁の深さも感じることができました。こどもたちに方言を伝えるためにも大事ではないかな?

​しいの実シアターは松江市にとって大切な財産であると感じていますが、まだまだ十分に生かしきれていないのではないかと思います。(認知度も含め…)こうやって考える場があることは大切だと思います。

​劇場・劇団があることは地域にとって貴重な資源であるという認識をより多くの人に持ってもらえるように、様々な機会を通じて積極的にPRしていくことが大切だと感じました。ひとつひとつの地道な活動を積み重ねて松江市の文化力向上につなげていく、次世代に引き継いでいくことが重要だとも強く感じました。

​初めてしいの実シアターに来ました。元気も良く紅葉がきれいでとてもいい場所にあるなぁと思いました。劇場の雰囲気も良く、今度は演劇を観に来てみたいと思います。市街から少し来ただけで、非日常が味わえました。

演劇というと小難しいイメージがあり、あまり観たことがありません。劇団四季は観ました。いわゆるエンターテインメントで素晴らしかったです。しいの実シアターのような小さな劇場は近くで演じる人を観られ、観客同士の一体感も感じられてると想像しました。せっかく近くにあるので、ぜひ小さな劇場ならではの手作り感や地域に密着した感じを味わってみたいです。

​演劇とは“心の食べ物”。演劇には種類があること、様々な時代により変化してきたことも分かりました。心が豊かに慣ればみんなが幸せになっていく、その通りだと実感。演劇祭のお手伝いのクルーとして一員として活動し、こどもたちも多く観劇されていて、希望を感じました。演劇、特にしいの実シアターは、生の声、息遣いを直接感じられて心に直接伝わり、あふれる想いを感じ、演劇ならではと思います。

民から宮へ。楽しい集いであること、大事なことだと思いました。「森」が大切であることがよく分かりました。

園山先生の話の中で、「演劇が人を育てる、心を育てる、心の栄養になる」と言われていました。知り合いの人との関わりがうまくできない子が、演劇祭を2回観劇。難聴でうまく聞き取りができないからと諦めていた人が無言語を観劇。足の悪い方が観劇。小さな劇場だからこそ地域の方を巻き込みできる良さを感じました。

新聞広告などでイベント案内をしてほしい。マーブルでイベント紹介したら如何?私はしいの実シアターの存在すら知りませんでした。

ご回答いただきまして、ありがとうございます。


(ラウンドテーブル前日の様子:左から、齋藤先生、上定市長、グレフ先生、垣内先生、園山理事長)

 

スピンオフ企画 

ラウンドテーブル@松江

​「劇場の未来を考える~課題解決型シアターマネジメント2022ー新たな視点ー」

 The future of theaters: Beyond the pandemic crisis


■日時  2022年11月14日(月)14:00-16:40

■会場  松江市八雲林間劇場しいの実シアター

    (島根県松江市八雲町平原 481-1)

■申込

 しいの実シアター(NPO法人あしぶえ)お電話でお申込ください。

 参加無料!(逐語通訳)

■タイムテーブル

 14:00-14:05 <オープニングリマークス> 垣内 恵美子(GRIPS)

 14:05-14:15 <ご挨拶> 上定 昭仁(松江市長)

 14:15-15:00 <ラウンドテーブル PART1>

 14:15―15:00 デジタル時代の劇場:時代を超えた役割|クサビエ・グレフ (パリ第一大学)

 15:00-15:40 <COFFEE BREAK>

 15:40-16:40 <PART2 ラップアップ:劇場が地域社会にできること>

      登壇者:クサビエ・グレフ/園山 土筆/齋藤 穣一/松尾 純一

      コーディネーター:垣内恵美子

       <クロージング・リマークス> 園山 土筆


【関連ページ】

座談会専用ページ https://www.culture.grips.ac.jp/matsue2022

第7回 松江・森の演劇祭 https://festival.ashibue.jp/



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