「劇場の未来を考える-課題解決型シアターマネジメント FINAL-」開催報告2
2019年11月26-27日、協力劇場のみなさまをお迎えし、本学にて「劇場の未来を考える-課題解決型シアターマネジメント FINAL-」シンポジウム・ワークショップを開催しました。
■11月26日(火)国際シンポジウム・館長会議の様子はこちら
■11月27日(水)ワークショップ&クローズドセミナーについては、本ページにてご紹介します
■ワークショップ
①文化創造・発信|北九州芸術劇場・穂の国とよはし芸術劇場PLAT
りゅーとぴあ 新潟市芸術文化会館
②観客創造|神奈川県民ホール・南条市文化センター シュガーホール
パティオ池鯉鮒(知立市文化会館)
③地域社会との連携|神戸文化ホール・北上市文化交流センターさくらホール
ミューザ川崎シンフォニーホール・森の劇場しいの実シアター
二日目のワークショップでは、3つのテーマを掲げ、研修生によるパネルディスカッションを行った。各劇場における具体的な取り組みに基づき、テーマに即した取り組みや課題について議論した。以下にその概要をまとめる。
①文化創造・発信
文3つのテーマを掲げ、研修生によるパネルディスカッションを行った。各劇場における具体的な取り組みについて、テーマに即した取り組みや課題について発表し、意見を交わした。文化創造・発信においては、主に「評価」、とりわけ、外部から求められる「自己評価」について、定量的・定性的評価の妥当性或いは正当性、エビデンスとして何が適切であるか、それをどのように定めるか等も議論となった。垣内教授からは「何を<やめる>かを決めるのが戦略です。一般的なマネジメントの場合、その時に必要とされるのはデータ。いわゆるエビデンスです。劇場が戦略的に<やめる>時に必要なのは何でしょうか」という問いもなされたが、事業企画・運営をしながら、評価のための調査・分析を行うということの困難さはいずれの劇場においても挙げられる課題であった。合わせて、何かしらの事業をはじめるにあたっては、目標や期間などを予め定めたうえで、過去の成功体験に頼りすぎることなく、第三者の視点で、継続の要否について議論する必要があるという意見もあり、そこには、日本社会における特有の未成熟さが露見されるという指摘もあった。一方、劇場でしか実現しえない「文化創造」を、どのように具現化し、発信し、市民に理解してもらうかも課題として挙げられた。重ねて、劇場に求められる機能が細分化しているため、今後、芸術の創造については体力のある劇場にしか担えないのではないかという懸念の声もあったが、制度的な枠組みにおいても、劇場が芸術(芸術家)と地域を結びつける拠点であること矮小化することはないという見解もあった。
②観客創造
観客創造においては、観客が誰か、ということを踏まえながら、それぞれの劇場における現状が紹介された。いずれの劇場においても、観客の固定化、高齢化する傾向がみられ、若年層への働きかけとして、地域におけるアウトリーチや、関連事業等の実施等、劇場へ足を運ぶきっかけづくりが行われていることがわかった。アドバイザリー津村氏は「時代や社会が変わる中で、観客そのものも変わってきているのではないかと思います」と述べ、例えばアウトリーチについても、開始当初に想定されていた「未来の観客づくり」という側面のみならず、地域との関わりや子供の教育、人材育成等、多様な需要を満たすための取り組みとして行われるようになった点についても意見交換がなされた。また地域に根差した伝統芸能・文化の活用や、民族芸能の継承にも話題が及び、少子高齢化の進む中での課題も挙げられた。
③地域社会との連携
地域社会の連携においては、交通手段を含む地理的な条件や都市の規模等を踏まえながら、それぞれの劇場の立地について述べ、また事業としての取り組み、施設としてのサービス等の特徴を紹介した。各劇場で、地域においてどのような貢献ができるか、という問いを繰り返しながら、さまざまな事業が行われている中で、例えば、震災以降コミュニティプログラムを実施するようになった、という事例も挙げられた。2012年劇場法(劇場,音楽堂等の活性化に関する法律(平成24年法律第49号))により劇場の役割が明確に示されたということもあり、方向転換を行ったという劇場もあり、社会の変化に合わせてその機能や役割を果たしながら、学校施設、地域の企業、経済界等とも連携を図り、行政からのみではなく、民間からの支援、民間との協働に向けての取り組みも不可欠であること等の意見が交わされた。

■クローズドセミナー
社会的評価に関するセミナーとして、2018年度インターネット調査結果分析例を用いた特別セミナーを実施いたしました。
【議 題】 1.インターネット調査概況説明・・・GRIPS 2018年度「全国文化施設(劇場)に関する観客調査」における、協力劇場(16施設)についての結果分析概説(アンケート調査結果集積システムに基づく分析結果)
2.各劇場での活動評価について・・・各劇場 ① 実態 (誰が、どのように行っているのか。評価をどう活用しているのか等) ② 評価する上での問題あるいは課題 (データ収集にコストがかかる等) ③ 必要なエビデンス、データ (利用者満足度、意識の変化等)
3.文化に関わる評価の必要性、問題点、留意点等・・・海外招聘者・アドバイザリー

(ディレクター・教授 垣内恵美子)
ご参加のみなさま、協力劇場のみなさま、関係者のみなさまには改めて御礼申し上げます。
※本事業成果はのちにハンドブックとして公開する予定です。
■本研修事業について
今日、我が国には2000弱の劇場・音楽堂等があり、文化基盤を形成している。このうち、約94%が公立劇場として地方自治体が設置したものであり(社会教育調査2015年中間報告)、近年、地方分権化の進展、官民協働・住民主体の地域経営へと大きく変容する中、劇場にも地域が抱える課題解決に能動的に取り組むことが強く求められてきている。2012年の劇場法では、劇場を地域コミュニティに開かれた「新しい広場」であるとし、2017年の文化芸術基本法では、「文化芸術の固有の意義と価値を尊重しつつ,観光,まちづくり,国際交流,福祉,教育,産業その他の各関連分野における施策との有機的な連携が図られるよう配慮されなければならない」と規定した。
一方、公的な支援を必要とする公立劇場にあっては、その社会的効果や活動による成果をできる限り客観的に説明する責任も求められるようになっている。とりわけ、2003年導入された指定管理者制度は、住民サービス向上とコスト削減という一見矛盾する目的を持ち、批判や反発もあったが、現在、劇場で半数以上の施設で採用され、活動成果の定量的な評価を含め、PDCAサイクルの実施が求められている。上記の経済社会の流れを踏まえ、2017年度から3年間実施している文化庁大学における文化芸術推進事業「課題解決型のシアターマネジメントに向けた次世代リーダー育成のためのプログラムの開発」は、公立劇場で制作を担うミッドキャリアの現職者で各劇場から派遣される者を、「社会の芸術ニーズを汲み上げて劇場活動に結び付け、その効果を社会に説明できる能力」を持つ次世代リーダーとして育成するとともに、そのための教育プログラムを開発しようとするものである。


2019年度 文化庁 大学を活用した文化芸術推進事業
「劇場の未来を考える-課題解決型シアターマネジメント-FINAL-」