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開催報告|国際シンポジウム「劇場の未来考える課題解決型シアターマネジメント2021」(後編)

劇場の未来を考える~課題解決型シアターマネジメント2021-新たな視点-

The future of theaters: Beyond the pandemic crisis

PartⅠの概要はコチラです。


2021年12月8日、令和3年度文化庁事業「劇場活動にかかる評価リテラシー育成のための教育プログラムの開発―自己評価ガイドブックの作成及び調査アプリの開発」の一環として国際シンポジウムを開催いたしました。


■概要

本事業2年目となる今回のシンポジウムでは、COVID-19により大きく変化した昨今、公共劇場における国内外最新の動向についての情報共有の場として、各劇場の現状を整理し、課題の把握、評価の有効性や活用、自己評価の試行等に関する議論を行いました。PartⅠでは、本事業研修生による「劇場が直面する課題」をテーマに、各劇場からの事例報告、PartⅡでは、現下の国際的潮流 コロナの影響と芸術活動 緊急報告」として、専門家による緊急報告を主とした二部構成としました。

 

■PartⅡ|コロナの影響と文化政策 新たな視点 

​    「A new perspective on adverse effects of COVID-19 and contingency plans by governments」

劇場の社会的インパクト評価を念頭におき、劇場活動及び劇場を取り巻く環境の大きな変化を、国内外からの専門家とともに、意見交換を行いました。なお、時間的な制約もあることから、主には情報共有の場として個別の事例に対するコメント、などはテキストで寄せていただく、オープンエンドの構成といたしました。


1.フランス:コロナの影響と文化政策 新たな視点|クサビエ・グレフ氏 (パリ第一大学 名誉教授)

New perspectives on effects of COVID-19 and contingency governments ‘plans :

Lessons from French Live Performance Management

パリ第一大学名誉教授 クサビエ・グレフ氏は、劇場をとりまくフランスの現況についてご講演。2020年春から現在にかけての劇場を取り巻く状況について、中央政府の動きと劇場でみられた取り組みなど、いくつかの事例を挙げ、具体的にご紹介くださいました。


「今回特にお話したいのは、コロナ以降のこと。危機的な状況は短い、と想定されていたが、実際には長期化し、劇的な変化が訪れた。コロナで、フランスも危機的な事態に陥り、劇場は2020年3月には閉鎖、当初6か月程度の閉鎖が想定されていたが、状況は改善されず、各国で延長せざるを得なかった。はじめは、ワクチンもなく、組織化も進んでいなかった。2021年以降、ワクチンが普及し、しかし、そのあと再びロックダウンとなり、つい最近、劇場も再開された。状況は改善されつつあるが、劇場では、座席数を減らし、(座席間、観客間の)間隔をあけなければならない。ワクチンパスポートもマスクも必要となり、12月15日からは、いよいよ3回目のワクチンも必要となる」


「劇場への支援は、主に国からで、中央政府が補償した。過去12か月の売上から、減額された7割を補償するもので、前年比より付加価値として稼げていたはずのものを補償する、という制度が取られた。しかし、劇場には制度上の問題があり、例えば、小さな劇場では会計処理が行き届かず、苦しい状況であるのに、それを立証できないようなこともある。また、アーティストやエンジニアについては、既存の制度ではカバーできないことも起きたが(失業保険の給付申請は、前年比に基づき申請する)、<ホワイトイヤー>と呼ばれる、この失われた期間については、劇場が閉鎖されて仕事がなくなったアーティストにも、権利が守られる措置がとられた(失業補償の期間を延期した)。また、ライブアートや音楽に、これまで、7億6000万ユーロ、劇場には5億ユーロが必要となった。論争の的にもなったが、国は金銭的な支援策を打ち立て、条件さえ守れば支援する、という決断を下した」


「当初、誰もが茫然自失としていたが、劇場は観客とのつながりを、アーティストやパフォーマーは技術者とのつながりを維持しようと努めた。ラジオやテレビでは公演を楽しめない、という人もいたが、離れて暮らすことが余儀なくされている以上、そうせざるを得なかった。演目が、自宅に届けられるようになった。オデオン座は、過去の演目をテレビやSNSで流した。かつて劇場で実演されていたものを、自宅に届ける。多くの劇場も同じようにした。そこでは、演目を、ソファに座ったまま見ることができるようにする、というだけではなく、身近に感じてもらえるような工夫をした。コメディ・フランセーズでは選りすぐりの俳優が朗読を行い、プルーストの<失われた時を求めて>は、Facebookなどでも中継された」


「多くの劇場にとって、その存在意義は、創造との出会いや人とのつながりにある。しかし、パンデミック下に人々を迎え入れることができないのであれば、潜在的な観客の前に出て行かなければならない。規制に従い実施する限り、フランスでは、文化省が、アウトリーチを奨励した。貧しい人々、また老人ホームや病院、刑務所など、特に文化から離れた人々が参加できるような、屋外、屋内、何らかの上演を行った。8千人のアーティストが参加し、1万件のイベントが実施され、およそ100万人がこれらのイベントに参加したと推定される」


「短期的、長期的な影響がある、と述べたが、(ライブパフォーマンスを行う)劇場の力が弱まってしまった。劇場は、4か月前の、2021年9月に再開した。2回目のロックダウンを経て再開したが、一部のアーティストは消えてしまい、観客も戻ってこなかった。いくつもの規制があり、どの程度リスクをとるのか、などいろいろと考えなければならなかった。劇場運営者は、観客のコントロールというより、劇場の計画が難しくなった。観客は、最後の最後までぎりぎりになって劇場に来るかどうかを決める。観客はシーズンチケット(例えば、年5回分のチケット)ではなく、都度チケットを購入するようになり、財政的にも危機を迎えることになった。小さな影響が続き、全体に影響が出ている状況であろう」


このほか、コメディ・フランセーズの事例、Poudrerie(プルドリ)というちいさなまちの事例、Zoomシアター新たに観客をひきつけるためには何が必要になるか、など現下の状況について触れてくださいました。

(基調講演スライドより)


2.劇場ができること:次世代を育てる |園山土筆氏(しいの実シアター 館長)

しいの実シアター館長園山氏は「次世代を育てる」をテーマに、第5回「しいの実シアター未来学校」の活動について、ご紹介くださいました。実際の活動内容と、その成果として、参加した子供たちの様子や、保護者の変化、講師の気づきなどについても、ご報告。発想力を刺激するための工夫や、スタッフの役割、劇場の役割などについても整理され、遊ぶように楽しむことを新たな視点としてご提案くださいました。しいの実シアターでは、2022年11月 5日(土)~ 14日(月)に「松江・森の演劇祭」(6カ国、10劇団の参加する国際演劇祭)開催が予定されているそうです。

(美しい自然に囲まれたしいの実シアター)


3.劇場ができること:市民とともに歩む|服部 孝司氏 (神戸文化ホール 館長)

神戸文化ホール館長服部氏は、市民とともに歩む、をテーマに神戸文化ホールの歴史を振り返り、直近の取組についてお話くださいました。阪神淡路大震災(1995 年 1 月 17 日)後の神戸市財政は逼迫、市からの補助金は 1/6に縮小、買取り公演が減少する一方、貸館は使用料が低廉で多目的に使用できることから、利用率は約 8割でアマチュア団体による発表会、演奏会が 4 割近くを占める現況、震災後途絶えていた 固有職員(正社員)制度を復活させ、年78人を有期雇用職員から登用し、将来の幹部職員を養成し、人材育成に力を入れているそうです。また、事業活性化のため、専門人材を登用、先進的他市施設とも連携し、創作段階化から若手職員が関わるなど、創造の場としての活動も重視し、これまでに神戸市民・兵庫県民と歩んできたホールの機能と役割を大切にしながら、長年培ってきた親しみやすさを新ホール誕生後にも受け継いでいくことが必要である、と述べました。


(歴史ある神戸文化ホール)


4.質疑及びディスカッション

アドバイザリー他、専門家による意見交換を行いました。

中でも印象的なコメントを幾つかご紹介いたします。 「百年前のスペイン風邪が大流行し、その頃から舞台芸術の在り方は変わったかというと、つくりかたはそんなに大きく変わったわけではない。あたらしいスタイルを考えるというのは無理ではないかと考えている。しかし、変化をもたらさなければいけない、ウィズコロナ、アフターコロナを考えるとハード、劇場の作り方を変えないといけないと考える。感染対応、政策マネージャーとワークショップの方法論をどう変えるかしかない」「地域の魅力、引き込む力をどういう風に高めていくのか、新しい価値を生み出していくのか。他には負けていられない、他とおなじように、ではなく、他の地域にないものをどうやって作って考えていくかが、これからの公共ホールの役割ではないかと思っている。そういう中でこれまでのことを少し考えなおして、次のステップ、地域に何が必要なのかに対して芸術文化が向き合う時間になったのではないか(津村)」 「グレフ先生の話を聞き、状況が劇場を変えることについて考えました。あたらしいスケジュールや上映時間、脚本、或いは、場所を選ばないものを作ったり登場人物を制限したり、劇場空間の作り方を考えていく機会だと思いました。今までと違うもの、というよりもバリエーションを増やすという意味で重要とも思えました。また、しいの実シアターのお話にあったように、あそびの中にも創造性がある、というのが大事なのかなと。知恵、喜びの源を得るのではないか。創造性を刺激するあそびが人間にとって喜びの源になっていて、劇場を考えるうえで重要なことではないかと思いました(本杉)」


「劇劇場の未来、ということで、地域の視点、劇場をどう見るかが極めて需要。地域の人々がどうやって劇場に来ているか。自分たちの活動エリアの人たちがどういう状態にあるか、地域にある文化資源は何か。劇場の持つ、ビジョン、ミッションなどを核に、地域ごとの力を持った内発的な創造活動ができる場所になればいい。ソーシャルイベントが行われていく中で、わくわくすることどきどきすることがいっぱい起き、私たちの暮らしが変わる、そういうわくわく感を持っていることが重要なんじゃないかと思います(永山)」


「日本全体が劇場空間をもっとたいせつにしていけるように力を合わせたいと思います。各ホールの努力が伝わってきました。劇場がどういう場所であるかを改めて考える、みんなが元気になる劇場をつくっていきたい(斎藤)」


劇場は「新しい広場」(劇場法)として大きな期待を集める一方、効率性への配慮、経費節減とともに、効果的な運営や説明責任も求められるようになりました。さらには、昨今のコロナ禍では休館や事業中止など深刻な影響を受けています。本シンポジウムでは、公立劇場の運営にかかる諸課題を共有し、劇場の未来、今後の方向性を検討するため、劇場を取り巻く環境を俯瞰し、とくに劇場活動の社会的評価に焦点を当てて議論する機会といたしました。ご参加のみなさまからのご質問、ご提言など、コメントを引き続きお待ちしています。


ご登壇のみなさま、ご視聴くださったみなさま、ご関係者のみなさまに、深くお礼を申し上げます。


劇場の未来を考える

課題解決型シアターマネジメント2021-新たな視点-

A new perspective on the future of theaters: Beyond the pandemic crisis

 

概要

日時:2021年12月8日(水)13:00‐17:30  

場所:オンライン開催 (Zoom Webinar)

言語:日英同時通訳(PartⅡ)


■Part Ⅰ|劇場が直面する課題 (非公開|closed session)

13:15 - 15:15 <5劇場×20分> 現状紹介と情報共有&課題の議論(調整中)

  ①13:15-13:35 日立システムズホール仙台(仙台市青年文化センター)

  ②13:35-13:55 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館

  ③13:55-14:15 神戸文化ホール

  ④14:15-14:35 松江市八雲林間劇場しいの実シアター

  ⑤14:35-14:55 北九州芸術劇場


■Part Ⅱ |コロナの影響と文化政策 新たな視点 

 16:00-17:00 特別講演|同時通訳(日英)

 16:00ー16:30 フランス:コロナの影響と文化政策(緊急報告)|クサビエ・グレフ氏 (パリ第一大学 名誉教授)

 16:30ー16:45 劇場ができること:次世代を育てる|園山土筆氏(しいの実シアター 館長)

 16:45ー17:00 劇場ができること:市民とともに歩む|服部 孝司氏 (神戸文化ホール 館長)

 17:00ー17:25 質疑及びディスカッション

  齋藤 讓一氏 (一社 日本劇場技術者連盟 理事長)・津村 卓氏 (一財 地域創造 プロデューサー )

  本杉省三(日本大学 名誉教授)他

 17:25ー17:30 クロージングリマークス  垣内恵美子(GRIPS 教授)

【関連ページ】

■国際シンポジウム2021

 https://www.culture.grips.ac.jp/symp2021

■令和3年度 文化庁事業

 https://www.culture.grips.ac.jp/project2020

■2017年度-2019年度 ハンドブック

https://www.culture.grips.ac.jp/handbook2019




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