開催報告2(Part Ⅱ|基調講演)|国際シンポジウム「劇場の未来を考える課題解決型シアターマネジメント2022」
国際シンポジウム「劇場の未来を考える課題解決型シアターマネジメント2022」を開催しました。PartⅠは協力劇場及び関係者によるクローズドセミナー、PartⅡでは海外からの専門家を迎えての基調講演、ディスカッションを行いました。
■開催報告2|PartⅡ 海外招聘パネリストによる基調講演
協力劇場館長・本事業アドバイザリー・海外招聘パネリストによるラウンドテーブル
Part Ⅱ|コロナ禍を超えて ~新たな視点
PartⅡでの基調講演では、財政学の専門家でヨーロッパの文化政策全般に造詣の深い、クサビエ・グレフ名誉教授(フランスソルボンヌ大学)に、劇場活動の支援において地方自治体が果たす役割、その重要性、必然性などについて、ヨーロッパの現状を踏まえてお話いただきました。またヨーロッパをリードする都市計画の専門家であるクンツマン名誉教授(ドルトムント工科大学)から、ドイツの人々にとって、劇場やコンサートホール、さらには地域文化センターなど文化拠点がどのような存在なのか、そしてコロナ禍以降どのような方向に進んでいくのか、将来展望を、具体的な数字も踏まえ、ご紹介いただきました。各国と日本の違い、またそれを超えて共通する課題について考える機会になったのではないでしょうか。
(1枚目:クサビエ・グレフ名誉教授、2枚目:クラウス・クンツマン名誉教授)
クサビエ・グレフ名誉教授は、2020年3月以降、全世界に影響を及ぼしているパンデミックは、我々の生活を揺るがした、として、COVID-19以降のヨーロッパにおける劇場をとりまく状況について講演しました。
「ヨーロッパでは、文化・創造分野もパンデミックの影響を最も大きく受けている。ユーロスタットの推計によるとCOVID-19は、EU全体で文化的・創造的な仕事に就く約730万に影響を与える可能性があるとされる。オランダでの報告(Ernst & Young Report)によるとクリエイティブ・文化産業(CCI)は、航空輸送部門に次いで最も大きな打撃を受けたとされ(売上高は、2019年に比べて31%減少)る。しかし、オランダの航空会社KLMが34億ユーロの支援を受けたのに対し、オランダのクリエイティブ・文化部門は17億ユーロを受けるにとどまった。また、影響を受けた人々の約30%は自営業者で、十分な社会的保護を受けられませんでした。ヨーロッパでは、文化部門、特に舞台芸術は、何カ月にもわたる施設利用の停止、閉鎖、また多くのアーティストが姿を消すなど、非常に深刻な影響を受けた…」
クラウス・クンツマン名誉教授は、都市環境の専門家として、劇場のもつ役割を踏まえながらドイツの現状について講演しました。
「日本語で<劇場>というと、あらゆる文化イベントを催す場所を示すようです。日本でも、パンデミックのあと、劇場と劇場の役割が議論になっている。ドイツでも劇場は社会における重要な役割を果たし、礎石になるものであり、多機能な市民ホールは地域経済にとって不可欠な場となっている。長い歴史に根差し、常に重要な役割を担っていました。エンタテイメントは教育の柱でもあり、劇場は、教育、社会包摂の場ともいえる。劇場が民主主義の門番であるとも考えられてきた。ここでは、ドイツの都市開発、生活における文化関連の重要性について述べさせていただきます……」
政府と劇場:コロナ後はどうなる? ヨーロッパの視点から
Governments and Theatres: What is Next After Covid? A European View.
クサビエ・グレフ名誉教授 Prof. GREFFE, Xavier
劇場、コンサートホール、文化センター:ドイツにおける日常生活及び都市発展の灯台/礎
Theatres, Concert Halls and Socio-Cultural Centres Light Towers and Corner Stones of Urban Life and City Development in Germany
クラウス・クンツマン名誉教授 Prof. KUNZMANN, Klaus R.
Part Ⅱ|コロナ禍を超えて ~新たな視点
16:00ー17:20
ラウンドテーブル Roundtable
(including directors of collaborating theaters, advisory members and panelists)
(協力劇場館長、アドバイザリー、協力研究者)
基調講演に登壇したクサビエ・グレフ氏、クラウス・クンツマン氏にを迎え、協力劇場(日立システムズホール仙台、神戸文化ホール、兵庫芸術文化センター、松江市八雲林間劇場しいのみシアター、北九州芸術劇場)より各館長、本事業アドバイザリーらにより、今後の劇場の在り方について意見交換を行いました。各館長からは、それぞれの活動内容を踏まえつつ、コロナ禍を超えての新たな展望や見えてきた課題、あるいはキーノートスピーチで紹介いただいた国際的な潮流との関連などについて、自由にお話しいただきました。

<登壇者>
上段左から、クラウス・クンツマン名誉教授(ドルトムント工科大学)、クサビエ・グレフ名誉教授(パリ第一大学)、佐藤ゆうこ館長(日立システムズホール仙台)、山下英之副館長(兵庫県立芸術文化センター)/中段左から、垣内恵美子名誉教授(政策研究大学院大学)、園山土筆館長(松江市八雲林間劇場 しいの実シアター)、久保山雅彦館長(北九州芸術劇場)、服部孝司館長(神戸文化ホール)/下段は本事業アドバイザリー、左から、津村卓氏(地域創造)、永山恵一氏(政策技術研究所)、斎藤譲一氏(日本劇場技術者連盟 )
各館長からの、コメント概要をご紹介いたします。
■佐藤ゆうこ氏|日立システムズホール仙台
利用者の固定化に課題意識を持っています。これから若い世代、ミレニアム世代にいかにアプローチするかが大切ではないかと考えています。指定管理制度のもとの運営ですので、事業費のきびしいなかであらたなチャレンジがむつかしいことは否めない。また若者、弱者へのアプローチも充分とは言い難い。クンツマン先生の話にもありましたようにエンタメ娯楽施設ではなく、教育と結びついた取り組みをしているドイツの例を伺い、その側面にも取り組みたいと考えました。コロナにより、観客、来場者数が戻っていないのは同じです。そうしたこともふまえながらあらたな取り組みをいろんな角度でやっていきたい。指定管理施設なので、行政の意向も踏まえつつ、わたしたちから新たな取り組みを行いたいと考えています。
■服部孝司氏|神戸文化ホール
神戸文化ホールは来年開館50周年を迎えるホールです。それだけに市民の認知度が高く、よく利用されているホールですが、老朽化が激しく、4年後には三宮に新築という話があります。2020年度には、コロナで5億以上の赤字を出して存亡の危機に陥りました。神戸市からの資金注入で乗り切れたが、集客もコロナ前の6割、収入は8割程度となり、決算では赤字の見込みです。今回の赤字の主なものはコロナだけではなく、光熱費は1.7倍となりました。ポストコロナにおいて、懸念は、お金に余裕のある人だけがホールを利用することになるのではないかという危機感があります。午前中の話にもありましたように社会包摂、子育て中の若い家族に来てもらう、障碍者に来てもらうなど、幅広く取り組みたい。また、新しいホールについてもハコモノをつくるのではなく、どう人材を育成するかにも取り組んでいます。
■山下英之氏|兵庫県立芸術文化センター
当館17年のあいだ、年間50万人をお迎えしていますが、コロナの影響で臨時休館したあと、どう再開するかを模索しながら今日に至っています。デジタルという話が出て、芸術監督の佐渡裕も模索したが、リアルの空間、ライブの重要性は代えがたい、として、今後ともライブを演じる劇場を追求したいと思っています。配信とオンライン鑑賞、劇場に足を運ぶ共有体験は、技術的発展により、共存していけるのではないか。これまで来場されなかった方への広がり。共時性,共空間性を持つ劇場を続けていきたい。ではどんな風に維持していくのか。お金の問題もあり人の問題もあるし、メンテナンスの問題もあるが、こういったものを誰が支えていくのか、社会的議論がいると考えます。社会的議論のうえで、劇場という共有財産をどう維持するかへの合意がいるという時代になっているのではないでしょうか。
■園山土筆氏|松江市八雲林間劇場 しいの実シアター
11月5日から13日まで松江森の演劇祭を開催していました。設置自治体の職員が、劇場の価値がどれほど重要か自分で経験するか。職員が家族で、奥さん子供さん親を誘ってくるのが大切なことだと考えます。また、資金を、わたしたちが自分たちで集めることも、今後重要になるのではないでしょうか。松江市は文化振興条例を完成しました。これは、松江市が本気になって作った条例です。これによって真剣に動き始めたと思いました。演劇祭終了時には、座談会も行い、非常に重要な体験となりました。市の文化振興課も手伝ってくれる中で、運営本部のスタッフの丁寧な説明、サポートを御覧になって、自らも同じように丁寧なサポートをしてくれました。これによって劇場がどれだけ本気でやっているか伝わったのではと考えます。
■久保山雅彦氏|北九州芸術劇場
2003年に開館し、20年経ちました。いかに改修していくかも課題です。皆さんが仰るのと同じように、